2009年7月31日〜8月5日:ベトナム視察旅行


本部副代表の宇田資子がベトナム・ホーチミン市の現地パートナーAids Programの活動視察に行ってまいりました。以下が報告書です:

2009年8月 ベトナム支援プロジェクト視察報告 

82日、日曜日・・・雨期のサイゴン。

小雨降る中をタクシーでベン・タン地区にあるマダム・トゥイの自宅に向かう。午前9時の約束より少し早く到着したにも関わらず子ども達はすでに二階のミーティングルームに集まっていた。

 豚インフルエンザの感染を恐れて今回は50人の生徒のうち少しでも体調が万全でないものは自宅待機とのユンさん(プロジェクトアシスタント)の指示で結局30名の出席となった。貧困地区では医者にかかることもままならない。

ユンさんをフィールドワークでヘルプしている新しい社会福祉士2名もミーティングに参加。

※2009年現在の小・中・高・短大・大学・職業訓練校に通学する各人数

小学校:12

中学校:16

高校 :13

短大 : 2名

大学 : 4

職業訓練校:3

   男女の比率

男 20

女 30

まずは、歓迎の歌で私を迎えてくれた。数人の新しい生徒を除いて他の子どもたちとは約一年ぶりの再会である。小、中学生などは背もぐんと伸びて表情も大人っぽくなっていた。

恒例の自己紹介(名前と学年、地区名)を終えてオープンディスカッションをした。子どもたちの声を直接聴くことのできる唯一の機会である。

まず、各々の将来の夢を聞いてみる。 昨年、岡 幸二郎さんが訪れた時も同じ質問をしたはずだが・・・今回は「医者」「教師」「コンピュータープログラマー」「エンジニア」4職種しか挙がらないことに驚いた。前回はもう少し現実離れした答えもあったように記憶していたのだが・・・「ムービースターとかアーティストになりたい人いないのぉ?」と、問いかけてみると子どもらしい屈託のない笑い声が沸くも結局「食べていける保障がないよぉ~」のとどめの一言。しっかりと現実を見据えて前に進もうとする彼等の姿勢に逞しさと同時に子どもらしい途方もない夢をみなくなっている寂しさも感じる。

 支援をする側と享受する側が腹を割って「オープンディスカッション」するのは実は容易なことではない。こちらは心から「何でも悩みとか提案とかあったら言って!」とアプローチしても子ども達からは優等生的な感謝の言葉とか発言にとどまってしまう。どんなにフレンドリーな空気でも、やはり何か一言発することにより、もし支援が打ち切られてしまったら・・・という懸念が根底にあるのだろう。

昨今、経済も急成長して表面上は自由な空気が流れてきているように見えてもやはり「社会主義共和国」。《体制を刺激するような本音の話》は、彼等の得意とするところではないようだ。

日本の歌をリクエストされ迷ったあげく、戸外の雨に負けないように北原白秋作詞、中山晋平作曲「あめふり」を唄った。「ピッチピッチチャップチャップランランラン!」のフレーズは特に小学校の子どもたちには気に入られ楽しそうに興にのってくれた。

ミーティングなかばでユンさんから努力賞の授与を発表。今回は「成績優秀で賞!」「家のお手伝い沢山して偉いで賞!」「校外活動やラフーの関係の活動に積極的に参加したで賞!」の三賞で受賞者は各三名。それぞれにノートなどの文房具が副賞として手渡された。

授賞式のあと、場がより和んだタイミングで私から新たな問いかけをした。「学校でコンプレックスを感じるときとか、行きたくないと思うことはない?」皆、「学校は好きだから行っている。」さらに「勉強は得意ではないけれど勉強できることが嬉しい。」という意見に同調して頷く子が多かった。

ミッシェル・オバマ氏やソーニャ・ソトマイヨールアメリカ合衆国最高裁判所判事の例などを挙げながら教育を受け人生のオプションを増やすことの大切さなど話し合った。「コンプレックスというほどではないけれど、クラスの他の子どもたちは家の車(最近は自家用車を持つ家庭が増えている)で送り迎えやバイク通学だけど自分は自転車なのでちょっと大変。特に雨の日はタイヘ~ン!でも恥ずかしくはない。」という子の意見にも頷く子が多かった。

このミーティングの中で高校一年生の チャン・ゴック・ハン が次のようなコメントを発した。

「学校のコンピューターの数が少なくて殆ど使えない。クラスメートの大半は家にコンピューターがあるので勉強に使えて羨ましい。宿題などの調べ物をしたい時はインターネットカフェに行くが1時間30004000ドン(2030)は自分の小遣いの中では厳しい。それに街のインターネットカフェではゲームやネットの電話を使っている人が多くてうるさい。」

コンピューターの使用に関しては私も聞いてみたいと思っていたので、よいタイミングだった。最近はコンピューターでタイプしたエッセーの提出やインターネットでのリサーチが前提となった宿題がでたりするようだ。

中古のデスクトップコンピューターは約250ドル位からあることを思い出しこれは、ラフーのメンバーと相談しなければならないことで今はアイデァだけであることを告げてから「もしここにコンピュータールームがあって自由にコンピューターとインターネットが使えたら遠くからでも来る?」と聞いてみた。「せっかく、設置しても自転車で通うの遠いから面倒・・・なんてことになったら無駄になるから正直な意見聞かせて!」との問いに皆、どんなに遠くても週末などに使いたいと目を輝かす。

 学校の勉強以外でも世界の情報を得るのにインターネットは彼等にとって何よりのツールであるようだ。(検閲はあるものの、政府もネット全部までは把握できない)昨今は、街のブティックや飲食店でもコンピューターの導入で在庫の管理等もしているので基本操作を知らないと就職にも支障がある。

このコンピュータールームの提案は帰国してから相談することを約束して最後に集合写真撮影でミーティングを終える。

彼等と再会の約束をかわし見送ってから10分もしないうちに激しく打ち付けるどしゃ降りとなった。彼等の家のある貧困地区は道路も舗装されていない。排水も悪いので直ぐに泥水があふれ足を取られる。この雨の中、自転車で無事に辿りついてほしいと祈った。

子ども達とのミーティング終了後、別室でマダム・トゥイ、ユンさん、ディレクターのミスター・バンと打ち合わせとなる。持参した貧困地区の子ども&女性達への支援金4000ドルと6月末に送金した育英基金4000ドルの領収書を受け取る。その後、子ども達とのミーティングで持ち上がった「コンピュータールーム」案を話し合った。

彼らもこのアイデァは、子ども達の将来に良い大きな影響を持つと考えられるので自宅の最上階に半分オープンエアの部屋があるので屋根をつけて4台くらいの中古コンピューターを設置する提案などが出された。日本で検討してみることを約束する。

卒業生のニュースとして写真の修正などの仕事についたチャン・チー・ニュー・グエン(女子) が220万ドン(125ドル)の給料で、月賦で(但しマダム・トゥイの立替えであり既に完済) 待望のバイクが買えたそうである。このような実績は他の子どもたちにとって羨望であり同時に励みともなっているそうだ。

この社会福祉チームプロジェクトの活動は、ユンさんを中心として頻繁に子ども達や彼等の住む地域を訪れて親達にも日々前向きに生きることの大切さ子どもにとって教育の意味をリマインド(思い出させる)している。ミスター・バンもマダム・トゥイもミーティングや遠足の大切さをよく話すが実際LAFFOO年間支援金の使途のなかでたびたびミーティング、遠足の経費が報告されて疑問に思うこともあったが、貧困地区の環境(日常的にあるドラッグの誘惑、売春・・・)を考えるとグループで励ましあって誤った道に陥らないようにすることがいかに大切で彼等を支えているか納得できる。

育英基金の制度により参加している子どもたちのここ数年の顔つきを見ていて以前のようなギスギスとした表情の子どもがほとんどいなくなったことからもユンさんたちの日頃の努力が報われている証拠だと思う。

ラフー本部副代表  宇田 資子